INTEL第4世代CoreプロセッサのHaswellをはじめ、現在のCPUはオーバークロック可能なモデルとして倍率変更が可能な「K」シリーズが発売されている。以前は倍率可変のCPUは販売されておらず(もしくは最上位の「X」シリーズのみ倍率可変)、ベースクロックを変更するのがオーバークロックの基本だった。
HaswellにはCPU Strapという機能があり、BCLKの変更が可能となっている。その検証はあまり出ていないようなので、CPU Strapについて調べてみた。CPUはINTEL Core i7 4770Kを使用している。
BCLKを変更して試してみる
CPU Strapの機能を見るためにBCLKを変更してOSの起動確認を行ってみた。今回はMSIのZ87最上位マザーボード「Z87 XPOWER」を使って検証を行った。XPOWERのCPU回りには、MSIがミリタリークラス4として位置付ける、高品質コンポーネント、Hi-C CAPコンデンサ、SFC(スーパーフェライトチョーク)が使用され、円柱型のコンデンサを使用している他のマザーボードとは異なるスッキリとした作りとなっている。
BIOSには「Adjust CPU Base Clock Strap」(以下、CPU Strap)という項目で「1.0」「1.25」「1.67」「2.50」の選択ができる。ただし、この値は「CPU Base Clock(MHz)」(以下、BCLK)と関連があり、BCLKを100のまま、CPU Strapを1.25に設定すると起動しない。
MSIのマザーボードの場合は、CPU Strapの項目は「AUTO」にしたまま、BCLKを任意の数値に設定すればいいようだ。これでCPU Strapの値はマザーボード側が再起動時に自動的に決めてくれる。表示されている「Current CPU Base Clock Strap」はBIOS変更を行ったときにリアルタイムに可変しない。これは他のクロックや電圧設定同様だ。
実際にBCLKを「5」ずつ上げていき、OSが起動(その後、SuperPI 1Mの動作を確認)したのは以下の通りだ。
BCLKは「175」まで変更することができた。意外だったのは、柔軟にBCLKの変更ができたことだ。
BCLKとCPU Strapの関係は「110」で「1.25」に、「145」で「1.67」となった。
Haswell発売当初、CPU Strapは「1.0」「1.25」「1.67」が用意されているとアナウンスされていた。そのため、BCLK125とBCLK167のみが設定できるのかと思ってしまうが、そうではない。それぞれの設定値が、前後のBCLKの幅をサポートしている。
つまり、CPU Strap=1.00がBCLK90~110、CPU Strap=1.25がBCLK111~139、CPU Strap=1.67がBCLK140~180をカバーしているといった具合だ。CPU Strapは車のシフトチェンジだと考えるとわかりやすいかもしれない。CPU Strapの設定を「Auto」にしておけば、ユーザー側はCPU Strapの値を意識することなく、BCLKを変更すればいいので、オートマ車と同じ感覚だ。
各CPU StrapがカバーするBCLKの範囲は20~40と幅が広い。前世代のIvy BridgeがBCLK±5ほどしか変更できなかったことを考えると、使いやすいといえるだろう。
BIOSセッティングには「2.50」という項目もあるが、この値での動作は確認できなかった
CPU Strapを使うときの設定方法
BCLKを上げると、いくつかの項目を調整する必要がある。
まずはCPUの倍率。これはそのままではCPUクロックが上がりすぎてしまうので、適度な倍率に変更を行う。たとえばBCLK130なら30倍で3.9GHz設定、BCLK150なら28倍で4.2GHzという具合だ。BCLKを上げるなら、倍率は下げるのが基本だ。
次にメモリクロックの調整だ。BCLKを変更するとそれに応じてメモリクロックがアップする。BCLKとメモリクロックは連動するようになっている。たとえば、DDR3-1600設定では以下のように連動していく。
BCLK100 DDR3-1600
BCLK101 DDR3-1616
BCLK102 DDR3-1632
もしDDR3-1600のメモリを使っているとすると、BCLKを上げていくと、メモリの動作範囲を超えてしまい、CPUではなくメモリの耐性限界となり、PCは安定しなくなる。BCLKに応じて、メモリはスペック範囲内に設定する。
CPU Strapの意味
今回試してみて、BCLKを変動させることが可能なことはわかったが、それによるメリットはなんだろうか? BCLKを変えてパフォーマンスに影響があるかを検証してみた。
以下のようにBCLKだけを違う値にして、CPUクロック、メモリクロックを同じに設定した。
(1)BCLK=100 CPU Ratio=33 CPU Clock=100×33=3.3GHz メモリDDR3-1600
(2)BCLK=150 CPU Ratio=22 CPU Clock=150×22=3.3GHz メモリDDR3-1600(DDR3-1066対比)
(1)(2)の設定で、SuperPI 8M、CinebenchR11.5を行ったところ、いずれもその違いを見いだすことはできなかった。BCLKのみが上がっている状態では、CPUのパフォーマンスにはほぼ影響はない。
INTELはオーバークロックの機能の一部として、CPU Strapについて触れていたが、倍率変更可能な「K」付きモデルが存在しているので、BCLKによるオーバークロックのメリットはあまりない。
ただ倍率変更ではBCLK100ベースで考えると、CPUクロックは0.1GHzずつしか変更できない。さらに細かい設定をおこないたい場合は、BCLKで微調整を行うことができる。オーバークロックを楽しんで行うときなど、倍率+BCLKでCPUクロックを調整するのはHaswellはやり易いといえる。
この機能が「K」付きでないモデルでも使えれば、メリットは大きかったのだが、どうやら「K」付きのみとなっているようだ。
あとCPU Strapが使える場面は、高メモリクロックの設定時だろうか。
現在、DDR3-2400、2666、2800、2933、3000といった高クロックメモリがあるが、メモリクロックがどこまで上がるかは、CPUのメモリクロック耐性に大きく左右されている。たとえばDDR3-2933のメモリを買っても、CPU側がDDR3-2933が動作する耐性がないと安定しない。
メモリクロック耐性はメモリの対比設定で異なってくる。もしBCLK100でDDR3-2933設定が安定しない場合、BCLKをアップして違うメモリ対比設定を試すということができる。だが、こういった使い方はかなりレアケースとなるだろう。
▲メモリはG.Skill DDR3-2400、DDR3-2800などを使用して検証を行った
まとめ
CPU Strapは前世代で難しかったBCLKの変更をサポートしてくれる機能といえる。オーバークロックの機能と考えた場合、倍率可変のCPU「K」シリーズでのみ使えるというのは残念だ。
現状ではエンスージアストの遊びの幅を少し広げてくれてはいるものの、一般的にはほとんど意味のない機能だろう。
CPU Strapについては海外サイトを含め、あまり詳細なレビューは見当たらない。もしかして有効に使える場面が潜んでいるかもしれないので、なにか面白い使い方を発見した方は、またレポートしてみたい。